★作品に影響を受けた出来事(思い出話)
『近所の精神病院』
実家の近所には、高台に精神病院がありました。
子供の頃、そこを通ると中から叫び声が聞こえてきたり、鉄格子から不気味に顔を覗かせる患者の姿がありました。
夕焼け空が血のように赤く染まった時なんて、そこに響く狂人たちの叫び声がとてもマッチしており、忘れがたい記憶になっ ています。
でも、それが怖い雰囲気かというと、そうでもありません。
どこか物悲しく、奇妙な安堵感さえ覚えるのです。
ノスタルジックで幻想的な心地よさといったら良いのでしょうか、そんな気分を感じていました。
その病院の隣には、患者を開放する広場(運動場)がありました。
時々そこにゾンビのような患者たちが放たれるのですが、友人がその一人に首をしめられたことがあります。
相手には殺意が無くて遊び半分で子供に接したような雰囲気でしたが、みんな一斉に逃げ出しました。
そんなところへ何度も遊びに出向きましたし、首を絞められたことも何故か笑い話にしていました。
そんな子供時代のせいか、僕の作品には「怖さ」と「楽しさ」が同居している気がします。
『知らないお爺さんからもらったお菓子』
小学校下級生の頃、一人で家に帰っていると、知らないお爺さんに呼び止められてお菓子をもらったことがあります。
レーズン入りのクッキーでした。
僕は、それをもらって悩みました。
「もしかしたら、このクッキーには毒が入っているかも知れない・・・」そんな思いが脳裏をかすめたからです。
そこで、僕はお爺さんの姿が見えなくなってしばらくしてから畑にクッキーを捨ててしまいました。
でも、同時にニコニコしたお爺さんの笑顔がよみがえってきて、とてもすまない気持ちになり、泣きながら家に帰りました。
そのことがずっと心に残っています。
同じような体験をしたクラスメートの話だと、そのお爺さんのクッキーはとても美味しかったとのことでした。
お爺さんのことを疑ってしまった僕は、よけいに落ち込みました。
でも、最近では、考え方を良い方向に変えました。
クッキーを食べた者たちは、きっとそんな思い出は忘れているでしょう。
でも、クッキーを食べなかった僕は、お爺さんのやさしさをいつまでも忘れません。 ある意味で、お爺さんの気持ちを最も 受け取った存在ともいえます。
そして、いつか自分が爺さんになったときに道を歩く子供たちにクッキーを配りたいと思いました。(笑)
一つの物事も角度を変えて眺めてみたら、ふと救われることがあります。
そんな逆転を自分の物語に求めている時があります。
『白ばばぁ』
小学校の帰り道、今にも倒れそうな木造の家には、「白ばばぁ」というお婆さんが住んでいました。
僕たちが彼女の家の玄関先で「白ばばぁ、白ばばぁ」と叫ぶと、中から顔中に真っ白なおしろいをつけた お婆さんが出て きて、玄関のジャリ石を投げつけて来ます。
頭がおかしい人だということは、見た目でよく判りました。
それでも、妖怪のような老婆が石を投げつけてくる怖さを僕たちは遊び気分で楽しんでました。
ある日、その「白ばばぁ」は僕の遠い親戚にあたることが母の口から聞かされました。
なんでも、戦争で旦那さんを失って以来、顔におしろいをつけて家に閉じこもっているようでした。
僕は、夫の死を受け入れられずに化粧をしながら待ち続け、やがて老婆になり果てた彼女を想像しました。
それから白ばばぁのところへは行かなくなりました。
妖怪のように感じていた老婆の裏側には、強い人間性がひそんでました。
そんな経験故か、テレビに出てくるような一本調子のステロタイプの登場人物(キャラクター)を浅く感じるようになりました。
人間(キャラクター)には、表面と裏面があるように感じますし、表には出さなくても裏を考えながら動かした方がキャラクタ ーに生命が宿る気がします。
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